角爪と丸爪、
ふたつの流れ
おなじ竜から、ふたつの道へ
第二話でお話しした、海をわたってきた竜——お箏は、江戸時代のはじめに八橋検校が今のお稽古のもとを整えてから、日本中へじわじわと広がっていきました。広がっていく先々で少しずつ違う個性が生まれるのは、言葉に方言が生まれるのと似ています。
その広がりのなかで生まれた大きな流れが二つ。ひとつは八橋検校から約100年後、京都・大阪(上方)で生田検校という人が整えた生田流(いくたりゅう)。もうひとつは、さらに約90年後、江戸(今の東京)で山田検校という人が整えた山田流(やまだりゅう)です。当教室がお稽古しているのは、この生田流。八橋検校の流れをまっすぐくむ、いわば「お箏の本家」にあたる流派です。
見た目でいちばんわかる違い——お爪
第三話でちらっと予告した爪の話、ここでじっくり。生田流は角がとがった角爪(かくづめ)、山田流は先が丸い丸爪(まるづめ)を使います。
お爪をタップすると、流派が入れ替わります(いま:生田流・角爪)
なぜ形が違うの? 生田流は爪の角を絃に当てて弾くので、体を箏に対して斜め45度に構えます。角がしっかり当たることで、輪郭のはっきりした音が出るのです。山田流は爪の丸い先端を使うので、体は箏の正面。正面を向くことで、いっしょに歌う声が前へ飛びやすくなります。当教室のみなさんが構えているあの角度、じつはちゃんと意味があったんです。
曲にも、それぞれの個性
生田流は、三味線や十七絃などと合わせる合奏や、技巧をこらした独奏曲が得意。みなさんが今お稽古している「さくらさくら」や「六段の調」も、この生田流の代表的な曲です。一方の山田流は、歌をメインにした「歌もの」が多く、語りものに近い雰囲気を持っています。
おなじお箏、ちがう物語
角爪も丸爪も、もとをたどれば同じ竜からうまれたきょうだいのようなもの。今度お稽古で爪をつけるとき、その角ばった形が、三百年ほど前の京都から届いた合図だと思うと、いつもの一音がちょっと誇らしく聴こえてきませんか。